イソップ物語は動物その他の ≪童話・世界・文学≫

世界に仮託して人間生活の諸相を描いた古代ギリシアの寓話集。

アイソポスの作と伝えられる。彼の伝記のなかに収められていた寓話が、そこから独立して一つにまとめられたものであろう。

すでに紀元前5世紀に「アイソポスの物語」として特定の動物寓話集が存在していたらしく、喜劇詩人や弁論家に愛好された。

これらの物語は、一般民衆の生活を基盤としていて、ホメロスの叙事詩が英雄、貴族の文学とすれば、これは虐げられた弱者の文学である。

時代の思想や宗教の求める規範とはかかわりのないところで、覚めた目で人間生活が描かれ、この点にもギリシア人の精神を象徴するような合理主義的思考が現れている。

庶民の生きるための知恵の結晶したもので、それだけに広く親しまれたのであろう。

この動物寓話の人気が高まるにつれて、これ以外の寓話、アフリカや小アジアの外来の寓話もアイソポスの寓話集のなかに組み込まれていった。

伝承上の最初の寓話集の編集者はアリストテレス門下のデメトリオスとされるが、伝存していない。

現在伝わっている最古のギリシア語テキストは紀元後2~3世紀のものである。

最初から、親しみやすい明快な散文で書かれていたようであるが、これを韻文に直す試みも何度か行われた。

その代表的な例は2世紀のバブリオスの寓話詩である。

また、ローマでは早くから紹介されていたが、帝政初期にファエドルスがラテン語の詩形で寓話集を発表した。

これらの詩は、ビザンティン時代とヨーロッパ中世を通じて、イソップ集の伝承に大きな役割を果たした。

このようにしてアイソポスの寓話集は、ギリシア民族の文学遺産だけにとどまらず、中世を経て、ルネサンス期における高い評価を得て、世界文学の一つとしての地位を占めるようになった。

わが国ではすでに16世紀の末にローマ字で印刷された『エソポのファブラス』が出版され、続いて仮名草子として『伊曽保物語』も出版された。

江戸時代を通じて、一般的にはならなかったようであるが、明治初期に、英語版の翻訳を通して再度イソップ物語が紹介され、小学校教科書に用いられるほど普及することになった。

現在では、外国の、しかも古代ギリシアの話とは思われないほどに、日本人の心に身近な物語として親しまれている。

わが国での受容のあり方からみても、アイソポスの寓話集が他に例をみない長い生命力を保ち、世界文学としての万人共通の深い基盤のうえにあることがうかがわれる。
update:2010年02月25日